“わかっている”と“できる”は違う 〜教育の手順を再設計する
こんにちは。 この連載では、介護施設で外国人スタッフと共に働くための「日本人スタッフ向け研修」の視点から、共生のあり方と教育の工夫をお届けしています。
第7回のテーマは、「教えたはずなのに、なぜかできていない…」という、介護現場でよくある課題について。
それは、教え方が悪いわけでも、本人の能力が足りないわけでもなく、“教育の手順”がズレているだけかもしれません。
“伝えた=わかった”という思い込み
介護の仕事は、専門性の高い職務です。 同時に、現場ごとのやり方や「暗黙のルール」も多いため、新人職員への教育には丁寧な時間が必要です。
しかし現場は忙しく、外国人スタッフに対しても 「これは○○だからね」 「さっき教えたよね?」 「一度やったはずだけど?」 と、短い言葉で済ませてしまうことも珍しくありません。
でも、私たちは見落としがちです。 “伝えたこと”と“相手が理解したこと”は、イコールではないということを。
認知と言語のギャップを知る
たとえば「トイレ誘導をお願いします」と指示したとき──
- 「誘導」の意味が、どこまで理解されているか?
- ご利用者との距離のとり方、歩行の補助、声のかけ方はどうか?
- 実際の導線や注意点を現場で確認しているか?
言葉で一言伝えるだけでは、その裏にある「ニュアンス」「判断基準」「禁止事項」などは伝わりにくいものです。
特に、日本語が母語でない外国人スタッフにとっては、言語の理解と、行動の理解の間に“もう一段階の翻訳”が必要になるのです。
教えたのに「できない」のは、本人のせい?
外国人スタッフに対して、「なかなか覚えてくれない」「ミスが多い」という悩みを聞くことがあります。
でも、その背景には以下のような「教育手順の抜け漏れ」が潜んでいることも多いのです。
1)理解よりも先に行動を求めていないか?
▶ 言葉を理解する時間をとらず、見様見真似でやらせてしまう。
2)視覚・実技による説明が足りていないのでは?
▶ 「見て覚えて」と言われても、文化が違えば見え方・注目点も異なる。
3)「なぜそうするのか」という理由が説明されていないのでは?
▶ ルールの背景がわからないと、場面ごとの応用が効かなくなる。
このように、“わかっていないのに、やらせている”状態では、間違いが起きるのも無理はありません。
スモールステップで教える工夫を
外国人スタッフに限らず、教育において大切なのは、「段階を踏んで教える」ことです。
- ①【知る】:基本用語や動作、注意点を頭で理解する
- ②【見る】:動画やデモで、具体的な動きをイメージする
- ③【やってみる】:実際にやってみて、手順を確認する
- ④【フィードバック】:良かった点と改善点を共有する
- ⑤【反復】:複数回繰り返して、体に定着させる
これをしっかり積み重ねることで、“知っている”が“できる”に変わるのです。
見て学ぶ力に頼りすぎていないか
日本の介護現場では、OJT(On the Job Training=職場内訓練)を重視する傾向があります。
「先輩のやり方を見て覚えてね」 「やりながら慣れていって」
──これは、言葉を介さずとも学べる日本人同士の文化には有効です。
でも、言語・文化の異なる外国人スタッフには通用しないケースが多いのです。
- 見ていても“どこが重要か”がわからない
- 手順を飛ばして見てしまう
- そもそも「正しい手順」が伝わっていない
このように、「見て学ぶ」には前提となる“理解の枠組み”が必要です。
eラーニングで“事前に学ぶ”という選択肢
そこで注目されているのが、実務に入る前に“知識をインプットする”教育のしくみです。
eラーニングでは、
- 事前に用語や注意点を整理した動画で理解を深め
- 実技との連動教材で「見て・聞いて・確認する」
- チェックテストで“わかったつもり”を可視化する
といった、段階的な学びの設計が可能です。
現場では実践に集中し、学ぶべきことはeラーニングで“先に頭に入れておく”。
これが「OJTを支える仕組み」として、多くの介護施設で導入が進んでいます。
“時間がかかる”のは普通のこと
最後にもうひとつ大切な視点があります。
それは、「習得に時間がかかるのは当然」という前提に立つこと。
文化の壁、言語の壁、身体感覚の違い── それらをひとつひとつ乗り越えていくには、本人の努力だけでなく、環境の支援が欠かせません。
- 何度も教えることを前提にする
- 一人ひとりの学習スタイルに合わせる
- 教える側も「教え方」を学ぶ
これこそが、“わかっているのにできない”というすれ違いを減らすカギなのです。
次回のご案内
次回(第8回)は、「“日本人だから当たり前”を問い直す──職場文化の共有とリーダーの役割」をテーマにお届けします。 共に働く仲間として、文化の違いを越えて「職場としての価値観」をどう共有するか── そして、現場を導く“日本人側の工夫”と“支えるリーダーのあり方”について考えていきます。
