言葉が通じない 〜“伝わらない”ことの壁を考える
こんにちは。 この連載では、外国人スタッフとともに働く介護の現場で、日本人スタッフが「共生」のために学ぶべき視点を、eラーニングという仕組みとあわせてご紹介しています。
第2回は、多くの施設でまず直面する「言葉の壁」に焦点を当てます。
「日本語が通じない」──この困難を、どのように理解し、乗り越えていけばよいのでしょうか。
「通じない」イライラと、外国人スタッフの“はい”の本音
介護現場のこんなやり取り、思い当たる方も多いのではないでしょうか。
- 「この書類、書いてもらっていい?」 →「はい」…でも、数時間後になっても書類は出てこない。
- 「ゴミ出しお願いね」 →「はい」…けれど、別のスタッフに聞いたら「出していない」とのこと。
- 「さっき伝えたよね?」 →「はい、すみません…」と返事はするものの、明らかに伝わっていない。
こうしたやり取りの中で、「なんでやってくれないの?」「言ったのに伝わってない!」という不満が募ってしまうことがあります。 ですが、その「はい」は、必ずしも“理解した”という意味ではないのです。
“はい”の背後にある「わかりません」「もう一度言ってください」
外国人スタッフが日本語で「はい」と返事をするとき、その背景にはいくつかの心理的理由があります。
- 「聞き返してはいけない」という遠慮
- 「何度も同じことを聞いたら、怒られるかも」という不安
- 「言われた内容はよくわからないけど、とにかく返事をしなきゃ」という焦り
つまり、「はい」は“肯定”ではなく、“会話を止めないための合図”として使われているケースもあるのです。
これは外国人に限らず、日本人同士でも職場でありがちな“通じたつもり”のすれ違いです。 ただし、言語の習得途上にあるスタッフにとっては、その“ずれ”がより大きな問題に発展しやすいのです。
「わからない」と言わせない空気が、ミスを生む
言葉のすれ違いを放置すると、どうなるか──
- 業務指示が正しく伝わらず、誤った作業をしてしまう
- 「大丈夫だと思ってた」が続き、事故やトラブルの要因になる
- 「なんで言ったとおりにできないの?」と不信感が募る
- やがて外国人スタッフが孤立し、萎縮し、辞めてしまう
このように、「言葉が通じないこと」そのものよりも、“伝わっていない”ことに気づかずに放置することが、職場の空気を悪化させていきます。
だからこそ、「通じない=相手が悪い」と決めつけるのではなく、「どうすれば通じるか」に目を向ける必要があるのです。
“伝え方”を工夫することは、介護のプロの技術
私たち日本人スタッフは、認知症の方や、耳の遠い高齢者への対応では自然と「ゆっくり話す」「言葉を噛み砕く」「身振りを加える」「絵を見せる」など、さまざまな伝え方を工夫しています。
でも、なぜか相手が“外国人スタッフ”になると、それをしなくなってしまう── これは無意識のうちに、「わかって当然」「同じことができて当然」と思い込んでいるからかもしれません。
相手の立場に立って伝える工夫をすることは、介護のプロフェッショナルにとって基本の姿勢です。 日本語学習者である外国人スタッフにも、その配慮を応用してみるだけで、コミュニケーションはぐんと円滑になります。
現場でできる、ちょっとした工夫
以下のような対応は、現場ですぐに実践できる“伝え方”の工夫です。
- 【ゆっくり/短く】一度にたくさん話さず、短文で区切る
- 【ポイントを絞る】「今日は〇〇だけ」「今はこれ」など、焦点を明確に
- 【視覚に頼る】ホワイトボード、メモ、チェックリストなどを活用
- 【確認を入れる】「今の、わかった?」ではなく「どうするんだった?」と聞き返す
- 【誤解を恐れず聞き直しを促す】「わからなかったら、何度でも聞いてね」と伝えておく
こうした工夫は、eラーニング教材の中でも、動画やイラストで“体感的”に学ぶことができます。
eラーニングだからできる、伝え方のトレーニング
外国人スタッフとの関係をよくするには、単に「優しくする」だけでなく、伝え方を“技術”として習得することが重要です。
eラーニングを活用すれば、こんな学びが可能になります:
- よくあるすれ違い事例を、映像で視覚的に学ぶ
- 伝え方の良し悪しを比較して理解する
- クイズ形式で確認しながら定着を図る
- 自分の伝え方を振り返るワークを行う
研修の目的は、「通じる工夫を身につける」こと。 eラーニングなら、自分のペースで学び直せるからこそ、“型”を体得しやすいのです。
まとめ:伝える努力が、信頼をつくる
「伝わらなかった」のは、誰のせいでしょうか。 もちろん、一方的に日本人スタッフのせいということではありません。
ただ、「言葉が通じないのは相手の日本語能力のせい」と決めつけてしまえば、そこで成長も改善も止まってしまいます。 それよりも、「どうすれば伝えられるか」を考えることで、関係性は前に進みます。
伝えようとする姿勢は、言葉以上のメッセージになります。
外国人スタッフは、そうした気持ちに敏感に反応します。
そしてその信頼は、チーム全体の空気を少しずつ、確実に変えていくのです。
次回(第3回)は、外国人スタッフの文化背景や価値観の違いに注目し、 「その“当たり前”、本当に“常識”ですか?」をテーマにお届けします。 文化の違いから生まれるすれ違いと、その対処法を考えていきましょう。

