基礎・医療・介護に分ける意味 〜“一律”では伝わらない現場の違い
こんにちは。 この連載では、医療・福祉の現場で行われるハラスメント研修について、現場の負担や実効性の問題をどう乗り越えていけるのか、 そしてeラーニングという手段でどのように「学びを仕組み化」できるのかをテーマにお届けしています。
第5回の今回は、研修内容を「基礎編」「医療機関編」「介護施設編」の3つに分けて構成している理由をお話しします。
「ハラスメント研修=全職員共通」で本当にいいのか?
多くの法人・施設では、ハラスメント研修といえば「全職員一括で行うもの」という認識が一般的です。
法律や社会的要請に基づいた共通の知識を伝える――これは当然、必要なことです。
しかし一方で、現場の構造や力関係、起こるハラスメントの種類、対応すべき対象は、それぞれまったく異なることも事実です。
たとえば、医師と看護師、事務職が混在する病院と、 ケアスタッフと利用者、家族が密接に関わる特養では、 「何が問題になるか」「誰が相談先か」すら違ってきます。
それにもかかわらず、「一律に同じ内容を受ける」だけでは、どうしても“ピンとこない”学びになってしまうのです。
「それ、うちの現場じゃないよね?」という声
共通研修を実施したあとのフィードバックで、よくこんな反応があります。
- 「内容はわかるけど、自分たちの職場には当てはまらない気がした」
- 「あれって、一般企業の事務系の話でしょ?」
- 「利用者との関係で困ってるんだけど、そこが出てこなかった」
これらはすべて、“現場の実感”と“教材の構成”が乖離していることによる反応です。
つまり、「学びの中身は正しい」が、「学ぶ側に刺さっていない」。 このズレを放置すると、受講者の関心や行動変化が起きづらくなってしまうのです。
分けて届けるからこそ“現場に届く”
私たちが構成しているハラスメント研修eラーニングでは、以下の3つに明確に分けた設計を行っています。
🧱 基礎編
- ハラスメントの定義・法的理解
- 被害と加害の構造・心理
- 初動対応の原則(止める・記録・相談)
- 「職場で声を上げられる文化」をつくる視点
→ どの職場でも共通する“土台”として、全職員が同じ認識を持つための基盤となる内容です。
🏥 医療機関編
- 医師・看護師・事務職などの専門職間の力関係
- 患者や家族からの理不尽な言動・暴言
- 対応が遅れやすい医療現場特有の空気と対策
- 守秘義務と倫理判断が交差する場面への対応
→ 「患者中心主義」と「組織的支援体制」のあいだで揺れる、医療現場のリアルな葛藤と判断に寄り添う教材です。
🏡 介護施設編
- 利用者・家族からの過剰要求・名指し指定などのカスハラ対応
- 外国人スタッフへの差別的言動への対応
- 小規模チームで起こる無視・仲間外し
- “優しさ”と“無理の境界”を支えるラインの引き方
→ 職員と利用者・家族との距離が近く、感情的負荷が高い介護現場ならではの課題を取り上げた内容です。
「基礎で揃え、分野で深める」──この2段構えが重要
全職員に一律で行う研修の落とし穴は、「誰にも当てはまらない内容になってしまう」こと。 その反対に、最初から細分化しすぎると「共通言語がなくなる」問題が出てきます。
そこで私たちは、“まず全員で基礎を揃え、その後に分野ごとの理解を深める”という2段構えの構成を採用しています。
この順番にすることで、
- 「うちの現場に関係ある」と感じてもらえる
- 職場内で共通の対応意識を持てる
- 担当業務による受講範囲の柔軟な設計が可能
- それぞれの部署で研修を活用しやすくなる
といったメリットが生まれ、“現場の行動を変える”研修として成立するのです。
“現場が違えば、学び方も違う”という発想
これからの時代に求められる研修設計とは、「どこでも同じようにやる」ではなく、「どの現場でも活きるように組み立てる」ことです。
たとえば、同じ「クレーム対応」の話でも──
- 医療現場では「症状が改善しない」「説明が足りない」といった声に対応する
- 介護現場では「うちの親をこの職員には担当させるな」といった名指し拒否が起きる
→ これらは同じ“ハラスメント対応”でも、判断軸も言葉の使い方も違ってきます。
だからこそ、研修教材も「汎用型」から「最適化型」へと進化していく必要があるのです。
次回予告
次回(第6回)は、「記憶に残る研修とはどのようなものか?」をテーマに、 一方通行の知識伝達ではなく、行動変容を促す教材設計の工夫── ケースベースの構成、シミュレーション問題、記憶に残る言葉の仕掛けなどをご紹介していきます。
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