“やらされ研修”から“考える研修”へ 〜学びのモチベーション設計

「今日の研修、あとで確認テストあるから受けといてください」
「え…また研修?内容、毎年同じじゃない?」

法定研修は、制度上やらなければならない「義務」です。
しかし現場では、義務であるがゆえに「やらされている感」が生まれやすく、結果として職員の学習意欲が高まりにくい状況があります。

今回は、“形式としての研修”から“納得して学ぶ研修”へと転換するために、eラーニングがどう機能しうるのか
──すなわちモチベーション設計の観点からのeラーニング活用について考えていきます。

■ 「やらされ感」が研修を空洞化させる

研修の目的は、「知識を得ること」ではなく、「現場でその知識を使えるようになること」です。

しかし、研修が義務として提供される場合、その意義がきちんと伝わらなければ、“こなすだけ”の形式に陥ってしまいます。

  • 「毎年同じ内容を、ただ座って聞いている」
  • 「退屈なパワポを見せられて終わり」
  • 「終了証が欲しいだけで内容は覚えていない」

こうした状態では、学びは「定着」せず、「応用」もできません。まさに“時間の浪費”になってしまうのです。

■ モチベーションが下がる3つの構造要因

① 受講者のレベルや経験に合っていない

新入職員も、ベテランも、外国人職員も、同じ教材で一律に学ぶ――これは一見“平等”に見えて、実は“誰にとっても中途半端”な研修を生み出します。

  • 初心者には難しすぎる
  • 経験者には退屈すぎる
  • 日本語が難解で理解できない

このようなギャップが、学ぶ意欲の低下につながります。

② 内容が現場とかけ離れている

法令や制度の説明に終始し、「自分の仕事と何が関係あるのか分からない」研修も、理解・納得につながりにくい要因です。

  • 「条文は分かったけど、現場ではどうするの?」
  • 「法律上の話よりも、対応事例を知りたい」

受講者にとって、「自分ごと」として捉えられない研修は、頭にも心にも残りません。

③ 受講形式が一方通行でつまらない

講義形式の動画をただ流すだけ、あるいは資料を読むだけの研修では、受講者の集中力は持続しません。自ら考えるきっかけがなければ、学びは深まりません。

■ “やらされ感”を“自分ごと”に変えるには

では、どうすれば受講者が「やらされている」から「自ら学びたい」へと変化できるのでしょうか?

鍵となるのは、「モチベーション設計」と呼ばれる視点です。eラーニングは、この設計を実現するために極めて有効な手段です。

■ eラーニングで実現できるモチベーション設計の5要素

① スモールステップでの達成感

長時間の講義ではなく、10分~15分単位の短い動画に分割することで、学習のハードルを下げ、完了感を得やすくします。

  • 「これなら今日の休憩中に終わりそう」
  • 「1テーマ終えるごとに達成感がある」

こうした設計は、忙しい介護職員にとって非常に重要です。

② クイズや確認テストで「考える」時間を作る

知識の定着には、ただ聞くだけでなく「自分の頭で考える」ことが欠かせません。

  • 要所にクイズや○×問題を挿入
  • 映像視聴後に簡単なテストで振り返り
  • 「理解したつもり」が「理解していない」に気づける構成

これにより、「なんとなく受けた」状態から「納得して覚える」研修へと変わります。

③ 現場事例やシナリオの導入

制度の説明にとどまらず、「現場で起きがちな具体的な場面」や「あるあるの対応例」を組み込むことで、受講者が内容を「自分ごと化」しやすくなります。

  • 事例:高齢者虐待を疑われた瞬間にどう動く?
  • シナリオ:認知症利用者が不穏になった場面での声かけ

こうしたリアルな状況設定は、研修に“実感”をもたらします。

④ レベル別・役割別コンテンツの設計

eラーニングなら、受講者の職位や経験年数に応じた研修メニューを分けることができます。

  • 新任向け「基本のキ」
  • リーダー向け「マネジメント研修」
  • 外国人職員向け「やさしい日本語版」

「自分に合った研修」が受けられると、内容への納得感・集中力が格段に高まります。

⑤ 自己評価や振り返り機能

研修終了時に「チェックリストによる振り返り」や「自分の理解度評価」を組み込むことで、学びを内省につなげることができます。

  • 「今回の学びをどう現場に活かすか」
  • 「次回のテーマで意識したいこと」

これにより、知識が行動変容に結びつく可能性が高まります。

■ 教育は「内容」より「設計」が結果を決める

重要なのは、「何を教えるか」以上に「どう学ばせるか」です。
法定研修もまた、学習者の心理を前提としたモチベーション設計なしには、“意味ある研修”にはなりません。

eラーニングは、こうした設計をコンテンツの構造として事前に組み込むことができるため、「学習者視点」に立った教材運用を可能にします。

■ 受講者の心に残る研修を

私たちは、受講者が「受けたことを覚えていない研修」ではなく、「考えたことが記憶に残る研修」をつくりたいと考えています。

  • ただの義務から、自発的な学びへ
  • 一方通行から、対話的・参加型へ
  • 記録のための研修から、成長のための研修へ

法定研修は、形式ではなく、本来「職員の行動を変える」ためのものです。そのためには、“学ぶ意欲”を設計する視点が欠かせません。

次回(第7回)は、「研修管理者のためのeラーニング導入ガイド」。

管理・運営の現場で、eラーニング導入時に気をつけたいポイントや、現場規模に応じた導入ステップを具体的にご紹介します。

OJTをより効果的に活かすためには、準備された知識の土台が欠かせません。


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