年間計画が立てられない 〜業務の隙間がない介護現場の現実
介護施設の多くが、「法定研修の年間計画は“作ること”自体が難しい」と感じているのではないでしょうか。 第1回では、法定研修が「制度として義務づけられている」一方で、「現場では実施が回らない」現状を整理しました。
今回はその中でも、最初のハードルとも言える「年間計画が立てられない理由」と、「どうすれば形骸化しない計画が作れるのか」について考えていきます。
■ 年間計画が“絵に描いた餅”になる理由
厚生労働省が定める法定研修のテーマは、年間を通じて計画的に実施することが求められています。実際、多くの施設では毎年「年間研修計画表」を作成し、事業所内研修の実施日・内容を月単位で記載しているでしょう。
しかし、その計画は本当に「実施できる前提」で作られているでしょうか。現場の声を拾っていくと、次のような声が上がります。
- 「実施日を決めても、その日になると人が足りない」
- 「出勤しているのに急遽対応が入り、研修を離脱せざるを得ない」
- 「夜勤明けの職員を無理に研修に参加させて、かえって不満を招いた」
- 「外部講師を手配しても、結局一部しか参加できない」
こうして、「計画はあるが実施できない」という構図が日常的に発生しています。
■ “計画が立てられない”構造的要因
ここで、年間計画が立てられない/実行できない主な原因を整理してみましょう。
① 24時間365日稼働のシフト制が基本
介護施設では、常に誰かが利用者のそばにいなければなりません。
そのため、「全職員を一度に集めて研修する」ことは、ほぼ不可能です。
早番・日勤・遅番・夜勤といったシフトは複雑に組まれており、それに加えて職員の有休取得や急な欠勤など、変数は常に存在します。これでは、いくら計画表上で“全職員が集まる日”を想定しても、現実的には崩れやすいのです。
② 現場の「人手不足」が計画を妨げる
多くの施設では、通常業務自体がぎりぎりの人員で回っています。
そこに“研修のための時間”を捻出するのは簡単ではありません。
とくに新人研修やOJTが重なる時期、事故報告が集中する月、行政指導の対応などが重なると、研修どころではなくなります。
③ 計画を“組む人”が業務に追われている
実は、研修の年間計画を立てる研修担当者や主任職員自身が、現場の実務と兼務していることがほとんどです。
- 曜日調整、講師調整、会場調整、資料準備、回覧、記録、報告書…
- 全職員に周知し、未参加者へのリマインド、振り返り実施
こうした作業を「余った時間で何とかする」という運用では、精度の高い計画は立てられません。
計画が表計算ソフトや紙の書類にとどまり、実行に結びつかないことが起こりやすいのです。
■ 計画は「予定表」ではなく「仕組み化」で初めて回る
では、どうすれば年間研修計画は“絵に描いた餅”にならず、現場に定着するのでしょうか。
鍵となるのは、「時間と人数の制約」を前提とした、研修の仕組み化です。
具体的には、以下の2つの考え方が重要です。
【1】個別受講前提の設計
集合研修の形を守ろうとするから、計画が立てにくくなるのです。
むしろ、職員が「各自のペース・時間帯」で「自席やスマホで研修できる」仕組みにすれば、参加可否を気にして予定を調整する必要がなくなります。
この発想の転換により、「いつ・誰が受けてもよい」柔軟な計画を作ることが可能になります。
【2】計画と受講が“連動する”管理システム
計画を立てたら、次はそれを「いつ、誰が、どこまで受講したか」まで連動して追えるようにする必要があります。
eラーニングをベースとした研修管理システムでは、
- 年間計画として研修コースを配信予約
- 受講者には自動通知とリマインド
- 管理者は履修状況をリアルタイムで確認
- 未受講者へフォロー案内もワンクリック
といった運用が可能になります。
■ 年間計画の「形式」から「戦略」へ
研修の年間計画というと、形式的に「月に1回何かやる」といったペースで考えられることが多いですが、本来あるべき姿は「施設が育てたい職員像に合わせた教育戦略」としての計画です。
たとえば、
- 4月:新任者向けに虐待防止と接遇
- 6月:事故防止とリスクマネジメント
- 8月:感染症対策
- 10月:身体拘束廃止と意思決定支援
- 12月:認知症の理解と関わり方
- 2月:災害時対応とBCP(事業継続計画)
といったように、施設全体の課題や年間行事・季節性を踏まえて戦略的に組まれている計画であれば、職員にも研修の意味が伝わりやすくなります。
eラーニングは、「計画→配信→受講→記録」の流れをすべてデジタルで統合するため、このような教育戦略の運用に適しています。
■ 計画があるから、育成が回る
「計画を立てたけど、やれなかった」ではなく、 「仕組みで回しているから、やりきれている」
そんな施設運営が求められています。
計画を作ることをゴールにせず、「どう回すか」まで視野に入れたeラーニング活用により、法定研修の本来の目的──すなわち「職員一人ひとりが、より良いケアを提供する力をつけること」──に立ち返ることができるのです。
次回(第3回)は、「受講率が上がらない──法定研修の『履修漏れ』の構造」に迫ります。
履修率の管理の難しさと、eラーニングによる「見える化」の可能性について解説していきます。
OJTをより効果的に活かすためには、準備された知識の土台が欠かせません。
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