「言った・言わない」をなくす

法令から見た入職教育の責任とeラーニングの強み

「聞いていません」と言われたとき、何が問われるか

ある職員が勤務中にミスを起こしました。
そのとき、「すみません、そういうルールがあると知らなくて…」「入職のとき、そういう説明は受けていません」と言われたら──。

管理者としてはどう感じるでしょうか。

「いや、ちゃんと伝えたはずなんだけどな…」「他の人には同じことを説明してるんだけど…」と、戸惑うかもしれません。

しかし、労務管理の観点では、「伝えたつもり」は通用しません。
問われるのは、「客観的に説明した証拠が残っているかどうか」です。

この「説明責任」は、実はさまざまな労働関連法令の中で前提として求められているのです。

説明責任の根拠──4つの主な関連法令

入職時のオリエンテーションでカバーすべき法令上の義務や留意点は、以下の4つに整理されます。

労働契約法(第4条):労働条件の明示義務

雇用契約を結ぶ際、使用者は以下の内容を文書で明示し、かつ「理解できる形で説明」しなければなりません。

  • 賃金の額と支払い方法
  • 労働時間・休憩・休日のルール
  • 就業場所・業務内容
  • 契約期間や更新の有無

紙を渡して「読んでおいてください」では、実質的な義務を果たしたことにはなりません。
理解させる努力をすることが、法的に求められているのです。

労働基準法:安全衛生・勤務ルールの周知義務

介護施設は、高齢者を支える現場であり、転倒・感染・腰痛などさまざまなリスクがあります。
そのため、労働基準法および安全衛生法に基づき、安全衛生教育が義務化されています。

  • 身体介助の基本動作
  • 感染症対策(マスク、手洗い、消毒など)
  • 災害・火災時の避難行動

これらを「事前に教える」ことが使用者の責任であり、万が一教育が不十分で労災事故が起きた場合、施設側の説明責任が問われます。

個人情報保護法:情報の扱い方に関する周知

介護現場では、利用者の名前・住所・健康状態・家族関係など、多くの個人情報を扱います。

職員が「うっかり」漏らしてしまったことでも、法人としての責任は免れません。

そのため、職員には入職時に個人情報保護に関する教育を行う必要があります。

  • 利用者の情報をメモに残すときの扱い方
  • ゴミとして捨ててはいけない文書の扱い
  • SNSへの不用意な写真投稿などの禁止

ハラスメント防止法(パワハラ指針含む):周知・相談体制の義務

現在では、セクシュアルハラスメント、パワーハラスメント、マタニティハラスメントなどを未然に防ぐための施策を講じることが義務化されています。

  • ハラスメントに該当する行為の説明
  • 被害者の相談先の明示
  • 行為者への処分方針の事前周知

職場内でトラブルが発生した場合、「こういう行為は許されませんという教育を受けていたか」が争点になります。

「知らなかった」と言わせない仕組みが必要

以上のように、入職時には「言っておくべきこと」が数多く存在します。

しかも、その多くが、事後的に証明が必要になる性質のものです。

たとえば、ある職員がSNSに利用者の写真を投稿してしまったとしましょう。

「こういうことはやってはいけない」と、しっかり事前に教えていなければ、施設としての責任が問われかねません。

教えていなかったでは済まされない時代に入っているのです。

それでも現場は「忙しくて教えられない」

とはいえ、現場の実情はどうかというと──

  • 日々の業務で手一杯
  • 担当者によって教える内容がバラバラ
  • 「とりあえずOJTで」と丸投げになっている

このような状況では、「言うべきこと」を「言うべきタイミングで、すべての職員に確実に伝える」ことは極めて困難です。

ここにこそ、eラーニングの導入意義があるのです。

eラーニングが説明責任を支える3つの理由

教える内容が標準化される

全員が同じ動画を視聴するため、「誰に、何を、どのように伝えたか」が明確です。
属人化やばらつきがありません。

視聴履歴が証拠になる

LMS(学習管理システム)を活用すれば、職員ごとの視聴履歴やテスト結果が記録され、
「説明した」という証拠として保存できます。

繰り返し視聴で理解が深まる

一度では理解が難しい内容でも、動画で何度も確認できるため、「わからなかった」を防げます。

「伝えた」は「伝わった」ではない。だからこそ。

eラーニングは、単に動画を見せて終わるだけではありません。
“伝えたつもり”ではなく、“伝わった状態”をつくるためのツールです。

  • クイズで理解を確認する
  • モジュールごとに面談や質疑応答をセットする
  • LMSで履歴を可視化する

このような仕掛けと組み合わせることで、eラーニングは「教育の証明」としても「職員の安心」のためにも、両方の役割を果たすのです。

次回予告:伝えるべき内容は何か──eラーニングに盛り込む8つの基本項目

次回は、実際にeラーニングで伝えるべき内容を「8つの基本モジュール」に分けて、
その構成や時間配分、現場での反応などを具体的にご紹介していきます。

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