OJTが活きる“事前学習”という考え方
OJTがうまくいかない、教えたはずのことが身についていない――。
その原因は「教える側のスキル不足」だけではありません。
実は、「教えられる側の準備が整っていない」ことにも大きな要因があります。
OJTは、あくまでも実地訓練。
教える相手が“まったく何も知らない状態”でスタートするのと、
“ある程度の基礎を理解した状態”で臨むのとでは、その効果はまるで違います。
予習を前提とする教育スタイルへ
たとえば、ベッドから車いすへの移乗方法をOJTで教えるとき、手順や注意点を何も知らずに見るのと、あらかじめ動画で予習しておいた状態で見るのとでは、理解度も記憶への残り方も全く違ってきます。
人は「初めて見ること」「初めて聞くこと」に対しては、どうしても受け身になりがちです。
しかし、事前に知識がある状態でOJTを受けると、「ああ、あのことか」とすぐに結びつき、
より深く、より確かに理解できるようになります。
この“先に学ぶ”という行為が、OJTの質そのものを高めるのです。
「一回教えたから大丈夫」は通用しない
よくあるのが、「一度説明したら、もう大丈夫だろう」という現場の空気です。
でも、新人にとっては、覚えること・見ること・考えることが山ほどあります。
説明された内容が1回で定着することは、まずありません。
さらに、教える側も業務に追われて忙しく、何度も同じことを丁寧に説明する余裕はなかなかない。
その結果、新人は「質問しづらい」「迷惑をかけたくない」と黙り込み、わからないまま現場に立ち続けてしまうことになります。
この積み重ねが、不安やストレス、やがて離職へとつながることは、想像に難くありません。
OJTとeラーニングの“分業”で変わる現場
ここで鍵になるのが、OJTとeラーニングの明確な役割分担です。
- eラーニング:共通の基礎知識を事前に学ぶ場
- OJT:現場で実際の動きを見て、実践する場
このように分けることで、教える人によって内容にばらつきが出たり、教わる人がゼロから戸惑ったりすることが減っていきます。
どの新人も、同じスタートラインで現場に出られる。それが、教育の質を安定させる第一歩になります。
指導する側にも余裕が生まれる
事前に動画を視聴してきた新人には、ゼロからの説明は不要です。
教える側は、「もう理解している前提」で、補足や実技の指導に集中できます。
結果として、新人への声かけも要点を押さえたものになり、現場での関係性もスムーズに育っていくのです。
「ちゃんと教えられるか不安」という先輩職員も、
eラーニングがあれば“共通の土台”を持てるため、指導の負担感が減ります。
このように、事前学習を取り入れることは、教える人・教わる人、双方にとって大きな支えとなるのです。
次回(第3回)は、「教えたはずが、行動につながらない…」という現場でよくある問題に焦点をあて、
教育効果を“見える化”する工夫とツールについてご紹介します。
OJTをより効果的に活かすためには、準備された知識の土台が欠かせません。