なぜ今、カスハラ研修が必要なのか──介護現場に迫る静かな危機
こんにちは。今回から始まる連載では、介護施設におけるカスタマーハラスメント、いわゆる「カスハラ」問題と、その対応策としての教育、そしてeラーニングを活用した仕組みづくりについて、全8回にわたって掘り下げてまいります。
第1回は、出発点として「なぜ今、カスハラ研修が必要なのか?」を一緒に考えていきましょう。
カスハラは“例外”ではない
「うちの施設は高齢者ばかりだから、カスハラなんてあまりないよ」
そう感じている管理者の方もいらっしゃるかもしれません。でも、現場職員に声をかけてみてください。 「きつい言葉をぶつけられたことがある人」 「不条理な要求や叱責を受けたことがある人」 「家族のクレームに強くストレスを感じている人」
おそらく、ほとんどの手が挙がるはずです。
介護施設におけるカスハラは、「暴言」「威圧」「差別的発言」「不要な長時間の拘束的クレーム」「大声で怒鳴る」「物を投げる」「SNS等での名誉毀損」など、多岐にわたります。そしてそれらの多くが、“日常のなかに紛れ込んでいる”のです。
職員が声を上げにくい構造
問題は、カスハラが“あたりまえ”になってしまっていることです。 現場には、こうした空気があります。
- 「高齢者の言動だから仕方ない」
- 「家族の怒りもわからなくはない」
- 「これくらい我慢しなきゃプロじゃない」
この“許容”の積み重ねが、現場を沈黙させ、疲弊させていきます。 本当はつらい。でも誰にも言えない。
その結果、「黙って辞める」職員が後を絶ちません。
組織が問われる「対応力」
介護施設にとって、職員の確保と定着は、何よりも重要な課題です。 カスハラへの適切な対応ができなければ、それは職員の離職に直結し、結果としてサービスの質低下、施設経営への打撃にもつながります。
カスハラに対する組織の“構え”が明確であるかどうか。 報告があったときに、管理者が適切に対応し、上層部にエスカレーションできる体制があるか。 それが「働きやすい職場」として信頼されるための条件になります。
なぜ「研修」が必要なのか
では、どうすればいいのか?
その一歩目が「教育による認識の共有」です。
- どこからが“カスハラ”なのか
- 受けたときにどう対応すればいいのか
- 管理者はどう判断し、組織としてどう動くのか
- 再発を防ぐためには何が必要なのか
これらを、個人任せにせず「全職員で共通理解する」こと。 それが研修の目的であり、存在意義です。
単に「知識を与える」だけでは不十分です。 現場の判断・行動に直結するかたちで、“生きた教育”を設計する必要があります。
集合研修の限界とeラーニングの可能性
とはいえ、介護施設にとって、全職員が同時に研修を受けるのは現実的ではありません。 シフト制、突発的な業務、研修担当者の負担… それらがすべて、集合研修の限界を示しています。
そこで注目されているのが「eラーニング」という手段です。 時間や場所に縛られず、誰でも同じ教材を見て、何度でも振り返ることができる。 動画とテスト、確認リストによって「共通認識」を整えやすくなります。
さらに、受講履歴が残ることで、研修実施のエビデンスにもつながります。 つまり、“継続できる教育”としての実効性が高まるのです。
教育の「仕組み化」が離職を防ぐ
カスハラ対策は、特別な事件が起きてから動くものではありません。 “起きないようにする”ための仕組みづくりこそが、最大の予防策になります。
- 毎年、全職員に研修を受けてもらう
- 新人にも、パートにも、同じ内容で学んでもらう
- 現場で困ったとき、すぐ見返せる教材を用意する
こうした教育の「仕組み化」は、カスハラ対策だけでなく、 職員の定着・安心感・チームワークの質にも、確実に良い影響を与えます。
🔸次回予告
次回(第2回)は、 「『対応』は個人任せでは続かない──属人的対応の限界」をテーマに、 職員や管理者が「なんとなく」で対処してきたカスハラ対応の現状と、 その限界、そして“仕組み”として備えるための考え方を詳しく掘り下げていきます。
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