受講率が上がらない 〜法定研修の「履修漏れ」の構造

「全員受けたことにしたつもりだったのに、名簿を見返すと3人抜けていた…」
「再受講の指示をしたのに、結局そのままになっていた…」
「研修は実施したけれど、誰がどこまで理解していたのか不明だ…」

これは、ある介護施設でよく聞かれる“あるある”の声です。法定研修はすべての職員が定期的に履修することが義務づけられているにもかかわらず、現場では「誰がいつ何を受けたか」の把握が難しく、履修漏れが発生する構造が存在しています。

今回は、法定研修の「履修率が上がらない」原因を探り、その解決の鍵となる“見える化”の仕組みについて考えていきます。

■ なぜ「履修漏れ」は起きるのか

履修漏れの原因は、一言でいえば「管理と記録の限界」にあります。研修そのものは行われていても、それが「記録として残る」こと、「証跡として追える」こととはまったく別の問題なのです。

では、具体的に何が起こっているのでしょうか。

集合研修に依存した運用の限界

多くの施設では、月1回程度の集合研修を通じて法定研修の実施を行っています。
しかし、シフト制で働く職員すべてがその場に揃うことは稀で、以下のようなケースが頻発します。

  • 勤務日に当たらないため不参加
  • 急な利用者対応で研修を中断
  • 体調不良や家庭の事情で欠席
  • 開始時間に遅れて一部内容を聞き逃した

一方で、管理者や研修担当者は「このテーマは実施済み」として処理してしまい、実際に内容を受講していない職員が取り残される結果となります。

受講記録の管理が手作業・属人的

出欠の記録や受講状況の把握が、紙ベースや表計算ソフトで行われている施設が大半です。
この方法にはいくつかの問題があります。

  • 回収漏れ、転記ミス、集計ミスが起こりやすい
  • 担当者が異動・退職すると記録の引き継ぎが不完全
  • 「誰が、いつ、どのテーマを受けたか」を一元的に把握できない
  • 未受講者に対してフォローアップする余力がない

つまり、「実施したこと」だけに目が向き、「誰が完了していないか」という視点が抜け落ちやすいのです。

研修の進捗が可視化されていない

施設単位では「今月の研修を無事終えたかどうか」が焦点となりがちで、「職員一人ひとりの履修進捗」が追えていないケースも多く見られます。

履修状況が可視化されていないと、職員自身も「まだ受けていない」と気づかずに過ぎてしまうことがあります。
そして年度末、慌てて「まだ受けてない職員が◯人も…」という事態に発展するのです。

「履修漏れ」は、放置すると報酬減算に直結する

法定研修の履修状況は、介護報酬の加算要件や運営基準と密接に関係しています。

たとえば以下のような制度では、一定の研修実施が義務づけられており、未実施や未履修が確認された場合、減算や返還の対象になります。

  • 身体拘束廃止未実施による減算
  • 高齢者虐待防止研修の未実施
  • 感染症対策や衛生管理体制の不備
  • 特定処遇改善加算の職場環境要件 など

つまり、研修の履修率管理は経営上のリスク管理そのものでもあるのです。
管理や記録の不備によって、「実施していたはずなのに評価されない」「加算が取れない」という事態は、避けたいところです。

解決の鍵は「見える化」と「自動化」

ここで注目されるのが、eラーニングを活用した「履修状況の見える化」の仕組みです。

eラーニング型の研修管理システムを導入すると、以下のようなことが可能になります。

履修状況のリアルタイム把握

管理画面上で、職員ごとの研修履歴を一覧で確認できます。

  • 誰がどの研修をいつ受講したか
  • どのテーマが未履修か
  • 再受講が必要な職員は誰か
  • 受講回数・テスト結果・視聴時間 など

手作業による記録の転記・集計が不要になり、データが自動で蓄積されます。

② 未受講者への自動リマインド

設定した期限までに受講が完了していない職員には、自動で通知やリマインドが送られます。これにより、「声をかけ忘れた」「本人が忘れていた」という事態を防げます。

また、管理者も「フォローすべき対象者」を一目で把握でき、業務負担が軽減されます。

職員自身が自分の進捗を把握できる

職員ポータル画面では、本人がどこまで研修を終えたか、残りの課題が何かを確認できます。これにより、「いつのまにか履修漏れ」が防がれ、自発的な学びの姿勢も促されます。

eラーニングだからできる、フェアな学習機会

eラーニングは、「個別のペースで学べる」「繰り返し見直せる」だけでなく、研修機会の平等性を高めるという点でも重要です。

たとえば…

  • 夜勤明けの職員が、後日落ち着いて視聴できる
  • 短時間勤務や子育て中の職員が、自分の時間に合わせて受講できる
  • 日本語に不安のある外国人スタッフが、字幕やゆっくり再生で理解できる

こうした柔軟性は、全員が確実に「受けきる」ために不可欠な要素です。

「未履修ゼロ」に向けた施設運営とは

履修漏れは、発生してから対応するよりも、「起こらない仕組み」を先に作る方が、はるかに少ない労力で済みます。
そのためには、以下のようなeラーニング環境を整えることが効果的です。

  • 年間研修計画に基づくコンテンツの自動配信
  • 職員別の履修状況の可視化
  • 自動通知・リマインド機能
  • データによる報告書出力・実地指導対策

「教えたことにする」のではなく、「学んだことを証明できる」体制を。
履修の実態を“見える化”することで、管理者の業務負担も、職員の不安も減らすことができます。

次回(第4回)は、「教材が追いつかない──情報更新とコンテンツの質の問題」に焦点を当てます。制度改正やガイドラインの変化にどう対応するか、教材の整備と更新をどう効率化するかを取り上げます。

OJTをより効果的に活かすためには、準備された知識の土台が欠かせません。

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