なぜいま「法定研修」が現場で問題になるのか

介護の現場で、「法定研修が終わっていない」「誰がどこまで受けたか分からない」「また紙で記録か…」といった声を耳にすることは少なくありません。本来、法定研修は利用者の安全とサービスの質を守るために欠かせない大切な機会のはず。
しかし、その「重要さ」と「現場の実情」がかみ合わず、
いつの間にか“こなすこと”が目的化してしまってはいないでしょうか。

ここでは、そもそも法定研修とは何か、なぜ問題が起きやすいのか、そしてその本質的な意味を今こそ問い直す必要があるという視点から、「仕組みとしての教育」の必要性について考えていきます。

法定研修とは何か──「義務だからやる」ではない

まずは基本を確認しましょう。介護施設で働く職員に対しては、「法定研修」と呼ばれる教育の機会が制度的に求められています。たとえば以下のような内容です。

  • 高齢者虐待の防止
  • 感染症および食中毒の予防
  • 身体拘束の排除
  • 認知症ケアの基本
  • 安全確保・事故防止
  • 個人情報保護・プライバシーへの配慮 など

これらは、厚生労働省が定める運営基準や各種加算要件によって、施設側に“実施責任”が課されている内容です。すなわち「やってもやらなくても自由」ではなく、「実施しなければ報酬が減額される」性質のものでもあります。

ところが、現場ではこの「義務性」が先に立ち、本来の目的や意味が伝わりにくくなっているケースが多く見られます。「また研修か」「時間がないのに」「眠くなる動画を流すだけ」といった否定的な印象が先行してしまっているのです。

なぜ研修がうまく回らないのか

私たちがヒアリングを行った多くの介護施設でも、「法定研修を漏れなく履修させるのが難しい」「実施していても証跡が残っていない」「毎年資料づくりからやり直していて効率が悪い」などの声が上がります。

問題の根本には、いくつかの構造的な要因があります。

勤務形態と研修の両立が困難

介護施設では、早番・日勤・遅番・夜勤といった多様な勤務シフトが存在します。これに加え、突発的な利用者対応や緊急時の連絡も日常茶飯事です。一斉に職員を集めて集合研修を実施するには、あまりにも不確定要素が多すぎます。

その結果、「時間が取れずに研修が後回しに」「出勤日ではないので不参加」など、履修の偏りが生じてしまいます。

管理の手間が膨大すぎる

「誰がいつ、どの研修を受けたか」を正確に記録するには、受講記録の作成・回収・確認という一連の作業が必要です。多くの施設では紙の受講チェックリストやExcelで管理しているため、ヒューマンエラーが発生しやすく、特に未履修者の把握や再受講の指示が抜け落ちやすい傾向があります。

教材と体制が整っていない

研修を企画・実施する人材がいない、あるいは毎年担当者が変わることで、前年の教材や実施方法が引き継がれないケースもあります。また、法改正やガイドラインの更新に追いつけず、古い内容のまま研修が行われていることも少なくありません。

■ 「やっているつもり」と「やったことになっていない」現実

このような状況では、たとえ施設が「研修をやっています」と主張しても、実際に厚生局の実地指導が入った際に「実施記録がない」「内容が不十分」と判断されれば、加算減算の対象になるおそれがあります。

つまり、「やっているつもり」では通用しない時代に私たちはいます。

研修の目的が「書類上の履修完了」にすり替わってしまえば、学びの質は損なわれ、職員のモチベーションも低下し、利用者への支援の質も間接的に影響を受ける可能性があります。

現場に求められるのは「仕組みとしての教育」

こうした問題を解決するには、個々の職員の努力や担当者の奮闘だけでは限界があります。今、現場に必要なのは「仕組み」として教育を支える体制です。

  • 誰でもどこでも研修が受けられる柔軟性
  • 受講履歴や未履修を自動で把握できる管理機能
  • 教材の更新・配信が一元化された運用
  • 教育の負担を施設単位で軽減できる工夫

これらを実現するための一つの答えが、eラーニングを活用した「研修の仕組み化」にあります。人手不足や時間の制約といった現場特有の課題を前提にした、実効性ある学習環境づくりがカギとなります。

次回以降の展開に向けて

この連載では、法定研修が抱える具体的な課題と、その解決に向けたeラーニングの有効性をテーマごとに掘り下げていきます。第2回では、「なぜ年間研修計画が立てにくいのか」という問題を取り上げ、施設の業務構造との関係性や、それをいかにeラーニングで支援できるかについて詳しく解説します。

介護の現場に、本当に必要な「学び」の仕組みを。
忙しい毎日だからこそ、持続可能な教育体制の整備が求められています。

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